「プロになるには、譜面が読めないといけませんか?」
「プロってみんな譜面が読めるんですよね?」
SNSやネット上でも、よく目にする疑問です。
結論から言えば、バンドで売れるなら必須ではありません。
でも、僕はバンドマンにこそ、譜面を含めた「確かな技術」を持つことを強くおすすめしています。
今日は、なぜ僕がそう考えるようになったのか。 僕の20代、そして技術への考え方が変わった決定的な出来事をお話しさせてください。
大学生でMTV、年間70本のライブ。それでも足りなかったもの
僕はもともと、行動力はあったほうかもしれません。
大学生の頃にはすでに、自分のバンドの曲がコンビニやMTVで流れるような経験をしていました。
大学入学と同時にジャズギターを習い始め、バークリー音楽大学の奨学金試験に少額支給ですが、受かって(結果として留学しませんでしたが)、実際にボストンやNYへ勉強しに行ったりもしました。
22歳くらいにはレコーディングの仕事にも呼ばれたことがありました。
自分のバンド、サポート、ジャズライブ……それらを合わせると、年間70本近いライブをこなしていました。
当時の僕は、下手くそなりにある程度活動しているという自覚はありました。
しかし、今振り返ると、心の底から技術を渇望するような強いモチベーションが足りていなかったと思います。
上手くなるメリットを、プロの現場で生き残るための「武器」として、今ほど肌で感じていなかったのが原因だと、今ならわかります。
タワレコ1位でも、ラジオに出られなかった日
そんな活動を続ける中で、出したミニアルバムがタワーレコードのインディーズチャートで1位を記録しました。 その実績のおかげで、あるラジオ番組からの出演オファーが届いたのです。
しかし、当時のメンバーは会社員として働いており、平日の昼間の収録にはどうしても抜けられませんでした。
「それなら、僕一人でも行って宣伝してきます」と伝えたところ、仕事を持ってきてくれた関係者の方にこう言われてしまったのです。
「ギタリストだけ来ても困るんだよね……これじゃあね、(売り出せないよ)」
結局、出演の話は流れてしまいました。 チャート1位という結果を出しても、バンドというのは「チームの魅力」、そして何より「フロントマン(ボーカル)の顔」がいかに重要かという現実を突きつけられました。
「自分の人生は、自分で責任を持って決めたい」 そう痛感し、本当の意味で「職業音楽家(演奏、作編曲の職人的ミュージシャン)」として生きていきたいと覚悟を決めたのは、20代も後半のことでした。
「向いてないと思うよ」の正しさ
いざ、仕事をしている先輩に「職業音楽家になります」と伝えたとき、こう言われました。
「お前、向いてないと思うよ」
この世界は、幼い頃から一直線に目指し、鍛えている人もいる世界です。
僕が職業音楽家になると決めた20代後半は、正直に言って遅いスタートです。
ムカつくとも思わず、僕は妙に納得してしまいました。
「確かに、俺は不器用だしな……」と。
器用でなかった分、基礎力をしっかりと身につける必要があると、自分で頭のどこかでは意識があったのです。
衝撃を受けたセッションギタリストのトップとの差
そんな状況で、自分の実力とトッププロとの差を試すため、かねてからアコースティックギターが本当に素晴らしいと思っていた古川昌義さんのレッスンのオーディションを受けました。
オーディション自体は、僕がトップバッターでも、「結構譜面読めるね」なんて言われて、スムーズに進みました。
しかし、いざレッスンが始まると、「あれはどれだけ手加減トークだったんだ」とわかるくらい、実力の次元が違いました。
古川さんのレッスンは現場シミュレーション、つまり初見です。
事前に扱う内容は知らされていません。
例えば、劇伴の譜面を一度デモを聴いただけでその場で演奏し、OKテイクを出すことが求められます。
コードストロークも全部タマ譜で書いてあって、ボイシングも指定。
リズムやダイナミクス表現の精度。
ほぼ毎回のレッスンで撃沈していました。
古川さんが実際のスタジオワークの現場に連れて行ってくれることもありました。
僕もスタジオ仕事の経験はあったのですが、譜面を渡されたら必死に食い入るように見て確認していました。
でも古川さんは、スタッフから譜面を渡されても本番直前まで「たぶん大丈夫」と言って、ロビーでテレビを見ていたんです。
しかも、その結果が、
- 譜面はデモが流れた時にチラッと見るだけ。(デモも当然、その時初めて聴いています。)
- 本番は1テイクで完璧。(同録の他スタジオミュージシャンはミスも目立つような中)
- 演奏はもちろん、エフェクターの踏み替えまで全てが完璧。
そして、その完璧なテイクが終わった後、古川さんは僕を見て、「田村くんどう?出来そう?」ってニコニコしながら聞くんです。
「出来るはずないじゃん……」。あのときの演奏している背中は、頼れる師というより、あまりに遠すぎました。
自宅に帰った時にショックで吐きそうになったことを今でも覚えてます。
関係者には「日本のトップだから、そこまで気落ちしなくていい」と慰められましたが、
もう諦めようかと思うくらい、レベルが違いました。
「基礎」と「対応力」の次元が全く違ったのです。
憧れの蔦谷好位置さんの一言
それでも僕が今日まで音楽でなんとか生きてこられたのは、その時に知った「差」を埋めるために技術と向き合ってるからだと思っています。
昨年、憧れのトッププロデューサー蔦谷好位置さんの作品で弾かせていただく(Honda VEZEL CM楽曲「世界」KERENMI)経験しました。
※Honda VEZEL CM「世界」KERENMI(蔦谷好位置)のアコギを担当。現場経験をレッスンに活かす思い
その打ち上げの席で、蔦谷さんがその場で語っていた印象的な言葉があります。
「俺たちは技術だ」
僕の目を見て言われた言葉ではありませんでしたが、その言葉は僕の胸に深く刺さり、そして自分の考えが間違いではなかったと確信させてくれました。
音楽の世界には、どうしても「運」の要素があります。 しかし、「チャンスを掴める確率」は、技術で上げることができます。
レコーディングを取り巻く環境、音楽業界の構造の変化と共にスタジオワーク自体は本当に少なくなってしまいましたが、本質的な技術は価値を持ち続けるはずです。
バンドマンだからこそ、武器を持とう
だから僕は、本気で上を目指すバンドマンや若い生徒さんにこう提案しています。
「バンドだから読めなくていい」ではなく、 「バンドマンだけど読めるし、基礎がある」 状態を目指しませんか、と。
それが、あなたの音楽人生の選択肢を広げ、夢を現実に変えるための「確率」を跳ね上げてくれるからです。
もし、あなたが今の自分の演奏力に不安を感じていたり、もっと確実な「武器」を手に入れたいと思っているなら、ぜひ一度、基礎を見直しに来てください。
地道で遠回りに見えるその道が、魑魅魍魎とした音楽の世界でチャンスを掴める一筋の光になると僕の経験を持ってお伝えできます。



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