当ブログでは、これまで使用しているアンプ(PRS 30 amp、Fargen Blackbird V2)やオーバードライブ(Nordland ODR-C、Tube Screamer)などをご紹介してきましたが、肝心のギターについてはまだ書いていませんでした。
今回は、ジャンルを問わず最も使っている一本——Fender Custom Shop “Master Grade” Telecaster 1998年製についてお話しします。
僕には「これがメインギター」と決めている一本はありません。
現場や用途に応じて何本かを使い分けているのですが、その中でもこのMaster Grade Telecasterは、相当気に入って手に取る機会の多い一本です。
このギターとの出会いは、いわゆる「想定外」のものでした。テレキャスターと聞いて思い浮かぶサウンドのイメージを、ものの見事に裏切ってくれた一本だったんです。
「テレキャス=ジャキジャキ」のイメージを裏切られた話
テレキャスターというと、最近のJ-POPでもカッティングでジャキジャキ鳴らすイメージを持っている方が多いかもしれません。
シャキッとした硬質なアタック、歯切れの良いハイミッド、いわゆる「テレキャスらしい音」。
そういう先入観を持って試奏したのが、このMaster Grade Telecasterでした。
ところが、出てきた音はまったくの逆。
柔らかくて、甘い。
びっくりするくらい、テレキャスらしくない音だったんです。
当時、僕はテレキャスターを所有しておらず、「そろそろ一本欲しいな」と思って楽器店を回っていた時期でした。
普段使いの相棒として、まずスタンダードなテレキャス像を求めて試奏に向かったわけですが——目当ての音とは違うのに、なぜか手放したくない。
弾けば弾くほど、ジャズやブルースを自然と弾きたくなるような、独特の「鳴り」がそこにあったんです。
そもそも “Master Grade” シリーズとは何か
少し脱線して、このシリーズについて簡単に調べた情報を共有します。
Fender Custom Shop “Master Grade” シリーズは、1996年頃から1999年頃までのわずか3年ほどしか製造されなかった、当時の山野楽器(現フェンダーミュージック)の特注によって生まれたシリーズです。
当時のフェンダー社のキャッチフレーズは「ヴィンテージギターには当たり外れがあるが、Master Gradeはすべてが当たりである」というもの。
これを実現するために、ヴィンテージFenderの工作機器やテンプレートを使い、さらに当時を知るベテランクラフトマンを集めて作られたそうです。
ピックアップ担当にはAbigail Ybarra(アビゲイル・イバラ、通称Abby)女史、ネック担当にはHerbert Gaztelam(ハーバード・ガステラム)氏といった、有名なスタッフが関わっているようです。
僕の個体は1954年仕様、いわゆる「ブラックガード」と呼ばれる初期テレキャスターの再現モデルです。
黒いピックガード、ブラスサドル、アッシュボディ、メイプル1ピースネック、そして薄いニトロセルロース・ラッカー塗装。
この「薄ラッカー」も、後述する独特の柔らかい鳴りに関わっていると感じています。
ネックが柔らかい、、、、ハズレ個体?
試奏中、ネックを握って気がついたことがありました。
ネックがそこまで硬い感じがしないのです。
「ネック材は硬いものを選べ」というのが定説で、これは音の安定性や立ち上がりに関わる重要な要素とされています。
さらに店員さんに聞いてみると、トラスロッドが効きにくい状態でした。
これは、ネックが柔らかい素性ゆえに、長年の使用で反ってしまったのに、ロッドで戻しきれない状態になっていたものと推察されます。
普通であれば、これは「ハズレ個体」と判断される状態です。実際、相場よりかなり安く売られていました。
ところが、弾いてみると話が変わるんです。
その「柔らかいネック」が、不思議と柔らかく甘い鳴りを生んでいる。ジャズやブルースを弾きたくなるような、有機的なサウンドが立ち上がってくる。
同じお店には、80〜100万円のカスタムショップ製テレキャスターも並んでいました。それらと弾き比べてみたのですが——音の方向性も、鳴りの質感も、まったく違う。価格でもラベルでもなく、この一本の個性に惹かれてしまったんです。
それでも、紛れもなく「Fenderの音」がする
ここがギターの面白いところで、一般的に知られているようなテレキャスらしくない音であっても、聴けばすぐに「Fenderの音だ」と分かるのです。
シングルコイルらしい澄んだ音の輪郭、ボディの鳴りが乗ったあのクリアトーン、ピッキングニュアンスへの素直な反応——いわゆる「トラディショナルなFenderの音」のキャラクターを、しっかりと持っている。
僕にとって、このトラディショナルな音の説得力はとても大きいんです。
ブティック系のギターや、現代的な高出力ピックアップを積んだギターには、それぞれの良さがあります。けれど、多くの名曲で鳴らされてきた「Fenderというリファレンス」にある慣れ親しんだトーンは、他では替えが効きません。
このMaster Gradeは、その「Fenderらしさ」を保ちながら、個体としては独自の甘く柔らかい鳴りを持っている——その両立が、強く惹かれる理由です。
出力が低い、だからこそタッチで語れるギター
このギターのもうひとつの大きな特徴が、ピックアップの出力が小さいことです。
Abby女史によって手巻きされたピックアップは、現代の高出力ピックアップと比べると、パワーが弱めに作られています。
一見すると、これも「弱点」に聞こえるかもしれません。
ですが僕にとっては、これこそがこのギターの大きな魅力です。
出力が低いということは、タッチによる音量・音色の差をギター側が殺さずに伝えてくれるということ。つまり、ダイナミクスのレンジが広いのです。
強く弾けば前に出てくれて、弱く撫でれば囁くような繊細な音が出る。指の力加減やピッキングの角度の違いが、そのままサウンドに反映される。
ピックアップが先回りして音を「整えて」しまう高出力タイプとは、まったく別の方向性のギターです。
レッスンでも、僕はよく「フレーズのニュアンス」や「ピッキングの角度」の話をしています。
そういう、音そのものに表情をつけていく演奏スタイルとは、このギターはとても相性がいい。
むしろ、こういう個性を持ったギターと付き合うことで、よりタッチをこだわりたくなると言えます。
信頼するリペアマンの存在があったから買えた
「気に入ったから買う」と即決できたのには、もうひとつ理由がありました。
木工に長けた、信頼するリペアマンに当てがあったことです。
トラスロッドが効きにくいネックは、素人がどうにかできるものではありません。下手をすればネック交換、最悪の場合はギターとして使えなくなるリスクもあります。
けれど、信頼できる職人さんに見てもらえる環境さえあれば、話は変わってきます。
実際、購入後にネックの調整をしていただいて、現在はストレスなく弾ける状態を保っています。
ジャンルを問わず、自然と手に取る一本
こうして手に入れたMaster Grade Telecasterですが、現在はジャンルを問わず、自然と手に取ることが多い一本になっています。
ジャズやブルースで真価を発揮するのはもちろん、ポップスのアレンジ、R&B/ネオソウル系のカッティング、ロックのバッキング——どんな現場でも、まず候補に挙がってきます。
僕の場合は、トーンを少し絞って、クリーンやクランチのトーンで使うことが多いです。テレキャスらしく抜ける音でありながら、さらに太く感じる音になります。
また「ジャキジャキしたテレキャスらしさ」が必要な場面でも、トーンを全開にすればこのギターはちゃんと応えてくれます。
素の鳴りが柔らかいことは、弱点には感じていなくて、むしろ、トーンコントロール、ピッキングのニュアンスやアンプ・エフェクターとの組み合わせで、汎用性の高いサウンドが出せます。
つまり、出力が低くダイナミクスのレンジが広く、しかも芯にFenderらしいキャラクターを持っている——だからこそ、素材としての懐の深さを持っているのだと思います。
実際にこのギターで演奏した動画として、たとえば「ひとりブルースギター」などがあります。よろしければ、音色の参考にしてみてください。
「ブランドの説得力」と「一本の個性」、その両方に惚れた
このギターを通じて改めて感じるのは、ギターという楽器はブランドの持つ歴史的な説得力と、目の前の一本が持つ個性、その両方が大切だということです。
Fenderというブランドが何十年もかけて積み上げてきた音のリファレンスは、僕にとってはとても大きな価値です。
エレキギターの歴史でずっと信頼されてきた音、その説得力はアレンジャーやプロデューサーなど「現場から選ばれる」という視点でも大きな価値を持ちます。
同時に、この僕が手に入れた個体のように、その一本だけの大きな個性を持っていることもある。
「Master Grade=すべて当たり」と謳われるシリーズの中の、テレキャスとしてはある意味”想定外”とも言える柔らかい鳴り——その個性が、僕にとっては唯一無二の魅力になっています。
このあたりの感覚は、以前のブログ「良いギターの条件とは?「鳴る」ギター?」でも触れています。よろしければあわせてご覧ください。
このマスグレのテレキャスターは、僕にとってなかなか手放せない一本です。
これからも、レコーディングやレッスン、ライブ現場で活躍してもらう予定です。
機会があれば、また演奏動画とあわせて、このギターのサウンドをお届けしていきます。
👉 Vitamin Studio(下北沢)では、機材選びのご相談や、ご自身のギターを最大限活かす演奏スタイルのレッスンも行っています。
ご興味のある方は、【レッスン案内ページ】、【レッスンFAQ】もあわせてご覧ください。



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