セッションで「まわりの音をよく聴け!」って言われるけど、どういうこと?

ギターレッスン上級者向け

『Isn’t She Lovely』のバッキング解説の最後に、私はこう書きました。

それゆえに常に周りのパートに耳を傾けて、その役割、方向性を常に判断しながら自分の演奏に方針を持たせないといけないのです。

この一文は、セッションにおいて、うまくアンサンブルするために最も重要なコツだと思っています。

しかし、「耳を傾ける」「方針を持たせる」とは、具体的にどういうことなのでしょうか。

今回は、多くの人が悩むであろうこの「聴く」という行為の本質について、さらに深く掘り下げていきたいと思います。

1. 「音をよく聴け」の呪縛

ジャズセッションの世界に足を踏み入れると、誰もが先輩から「とにかく周りの音をよく聴け!」というアドバイスを受けます。
真面目な人ほど、その言葉を額面通りに受け止め、「今弾いたピアノのコードはC#m9だ!」と、鳴っている音を正確に分析しようと努力します。

しかし、私もかつてそうであったように、すぐに壁にぶつかります。
なぜなら、音を特定できたその瞬間、その音はすでに「過去」のものだからです。

過去を正確に分析できたところで、「では、次の瞬間、自分は何を弾くべきか?」という未来への道筋は見えてきません。
これでは、まるで延々と終わらない「音当てクイズ」に挑戦しているようなもの。
「周りの音を聴けって、言われても聴いてはいるんだけど、、、」と途方にくれてる人も多いのではないでしょうか。

2. 本質を考える:過去ではなく「方針」から予測へ

では、私たちは何を「聴く」べきなのでしょうか。

その答えは、過去の音そのものではなく、そのプレイヤーが創り出している「方針」を聴き取ることにあります。

「方針」とは、そのプレイヤーが音楽をどちらの方向へ進めようとしているか、という未来へのベクトルです。

「方針」の例

  • メロディは上昇しているか?下降しているか?
  • リズムのエネルギーは増しているか?減衰しているか?
  • ハーモニーは緊張感を高めようとしているか?リラックスさせようとしているか?
  • どんな色が想起されるのか?
  • どんな感情になる?

これらを言語で感じ取るのではなく、イメージとして瞬時に感じ取り、「この人は、物語の次のページをめくろうとしているな」と予測する。
これこそが、受動的な「分析」から、能動的な「対話」への第一歩です。

3. 全てのプレイヤーが持つべき「物語」と「自分の文脈」

良いプレイヤーの演奏には、必ず「物語(ストーリー)」があります。
彼らのソロには明確な起承転結があり、描こうとしている絵の全体像が伝わってきます。
それは、彼らが一音一音に明確な「意味」を持っているからです。

ここで重要になるのが、他人の物語を理解すると同時に、自分自身の「文脈」を失わないことです。

あなたの演奏もまた、あなた自身の物語の一部でなければなりません。
前の小節で弾いたボイシングから、次のボイシングへ滑らかに繋がっていく。
その一貫性、連続性こそが、あなたの演奏の「文脈」です。

相手が何かを仕掛けてきたからといって、いきなり自分の文脈を無視して、脈絡のない音に「ぴょん」と安易に飛んでしまっては、アンサンブル全体の物語が途切れてしまいます。

「伴奏で相手に気を使いすぎて、相手に振り回されるないように」自分をしっかりと持つことが大切です。

4. アンサンブルの神髄:「感覚的な調整」という対話

改めて、理想的なアンサンブルの状態を考えてみましょう。

それは、互いの「傾向」を読み取り、「物語」を尊重し合いながら、全体の方向性を常に「感覚的に調整し、やりとりする」という、極めて高度なコミュニケーションです。

「なるほど、あなたはそっちの方向へ行きたいんだな。ならば私もその物語に乗り、アンサンブル全体をそちらへ進ませよう」

「いや、今は私が新しい展開を提示する番だ。この物語に、新たな一章を加えてみよう」

このリアルタイムの対話と意思決定こそが、セッションの醍醐味です。
それは単なる演奏ではなく、その場にいる全員での「共同創造」に他なりません。

最後に

「周りのパートに耳を傾ける」とは、単に音を聴き分ける作業ではありません。
それは、共に音楽を創る仲間たちの意図を汲み取り、敬意を払い、自らの意思を提示しながら、その瞬間にしか生まれない物語を紡いでいくことなのです。

これらの言葉が、セッションで悩む人へのヒントになれば幸いです。

※冒頭の写真はJim HallとBill Evansのアルバム「Undercurrent」、うちのスタジオに飾ってあるレコードです。
まさにお互いの音を聴き合い、「相手の未来の方針を聴きながら、自身の物語を紡ぐ」という共同創造を神業のレベルで実践しています。


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