僕は即興演奏(アドリブ)が大好きで、教えている生徒さんの中にも即興演奏を楽しむ方がたくさんいます。
そんな中で、僕の即興演奏に対する考え方に大きな影響を与えたピアニストがいます。
それが、キース・ジャレットです。
彼の音楽への向き合い方は、即興演奏に自由をもたらすヒントになると思っています。
音楽は自分の中から生まれるのではない ― 「通り道(conduit)」になる感覚
キース・ジャレットは、音楽は自分の中からひねり出すものではなく、どこか外からやってくるものだと感じていました。
自分はただの「通り道(conduit)」になるだけだと。
この音楽の受け皿になるような感覚は、僕自身の即興演奏にもとても大切にしています。
1. 練習したことは一旦忘れてみる
「今まで練習したことは忘れろ」――
これはマイルス・デイヴィスが言ったとされる言葉です。
理想論だと分かりつつも、僕にはとても納得できる言葉です。
ステージで「練習したスケールを弾かなきゃ」とか「覚えたフレーズを入れよう」と頭で考えると、音楽が窮屈になってしまい、物語性がなくなる気がします。
むしろ、「今、自分はどんな音を出したいのか」というイメージだけを頼りに、感覚をオープンにして音を紡いでいく方が、自然で良い演奏になることを感じています。
2. まずは「よく聴くこと」が始まり
ジャレットは、演奏中に「次は何を弾こう?」と考えるのではなく、まず自分の弾いた音をしっかり聴いて、それに反応することを大事にしていました。
僕もアドリブの流れは、まず「よく聴くこと」から始まると感じています。
自分の音、バンドの仲間の音を聴いていると、自然と「次はこんな感じかな」というイメージが湧いてきます。
そのイメージに導かれて、次の音が生まれるのです。
未来をコントロールしすぎると音楽が息苦しくなる――これはさっきの話とも繋がっていますね。
3. 「ジャズだから」「ロックだから」をいったん忘れてみる
ジャレットは、クラシックやジャズ、民族音楽、ゴスペルなど幅広いジャンルに詳しい一方で、即興では特定のルールに縛られませんでした。
「ジャズだからこう弾くべき」などの固定観念に囚われず、音そのものが教えてくれる方向へ素直に進んでいくことを優先したのです。
僕自身も、「ペンタトニックスケールだけのアドリブはダメ」といったレッテル貼りには危うさを感じています。
音楽理論やスケールは理解を助けるための重要な道具ですが、言語化して「わかった気」になるのは危険です。
とはいえ、教育者としては練習の段階では理論やスケールを言語化し、わかりやすく教えることが必要だと考えています。
ここで大切なのは、「練習」と「本番(実際の即興)」をしっかり分けることです。
練習では理論やスケールを意識しながら技術や知識を積み重ね、
本番では肩の力を抜いて、自分が弾きたいと思う音に素直に従う。
その結果として、たまたまそれがペンタトニックスケールの音だった――という感覚こそ、即興の自然な姿だと考えています。
つまり、スケールや理論に先に縛られて音を選ぶのではなく、音楽の流れや自分の感覚に導かれて音が生まれ、後からそれがスケールに当てはまっているだけなのです。
4. ライブはお客さんと一緒に作るもの
ジャレットは「コンサートは僕のものではなく、その夜の会場にいる全員のもの」と語っています。
アドリブを弾いていると、僕もまさにそう感じます。
会場の空気や、お客さんの楽しそうな表情に、フレージングや音色など演奏自体が大きく影響されるのです。
即興は自分一人の内面だけを表現する場ではなく、
その瞬間に居合わせたみんなで作り上げていく音楽――そんな共同体験だと思っています。
キース・ジャレットの好きな言葉
キース・ジャレットの好きな言葉に、こんなフレーズがあります。
“I don’t make music, music makes itself through me.”
(僕は音楽を作るのではない。音楽が僕を通して自ら作られていくのだ。)
また、
“The only preparation is to be unprepared.”
(唯一の準備は、準備をしないことだ。)
という言葉もあります。
この言葉だけを聞くと「準備しなくていいの?」と思うかもしれませんが、もちろんライブでは準備は大切です。
即興演奏において言いたいのは、「必要以上に仕込みすぎない」ということだと僕は考えています。
つまり、演奏の枠組みや基礎はしっかり準備したうえで、
本番ではあえて頭を空っぽにして、自由にその瞬間の音楽を感じ取りながら弾く。
そうすることで、音楽が生き生きと自然に流れていくのだと思います。
即興とは「生まれた音の物語を聴き、それに次の音を繋げること」
結局のところ、即興とは、練習で貯めた引き出しを無理に披露する場ではないのかもしれません。
その瞬間に生まれた音のかけらを、まず自分が一番の聴き手になってしっかり聴き、
そこで生まれた物語に次の音を繋げていく――そんな感覚なのだと思います。
もちろん、練習は大切です。
でも、ギターを抱えたらまずはそれらを一旦忘れて、音の導きに身を委ねてみてほしい。
僕にとっての即興の理想は、そんなシンプルな気持ちに尽きます。
※資料と音源
キース・ジャレット: インナービューズその内なる音楽世界を語る
単行本 – 2001/3/1
キース ジャレット (著), ティモシー ヒル (編集), Keith Jarrett (原名), Timothy Hill (原名), 山下 邦彦 (翻訳)
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Inside Out
キース・ジャレット・トリオによる完全即興演奏集 2000年



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